——殺し屋が結婚詐欺師と共に最高の結婚を目指す、婚活バトルアクション。物語の設定やキャラクターはどのように生まれたのでしょうか。
静脈 父が亡くなった時に、長男の僕が家を継がなければならないという話をされて。父は公務員でしたし、それまで“家”というものを意識したことがなかったのでインパクトのある出来事として頭に残っていました。加えて、祖母が家でボスのような強い存在だったこともアイデアのきっかけになったと思います。キャラクターについては、たとえば下呂(ヒカル)は、女の人が苦手な気持ちは少し分かるなとか、殺し屋だったらどうなるかななどと、いろいろな要素を思い浮かべて組み合わせてたどり着いた感じです。作画の依田(瑞稀)先生から城崎(メイ)のイメージを訊かれた時には、その時ハマっていたアイドルを例に挙げたと記憶しています。僕はその時にハマっていることや見て気になったことなどをリアルタイムで反映させることが割と多いです。散歩中に見かけた風車を見て、かんざしにしたら面白いんじゃないか…とか。テレビや街中で見かけた面白いことにダイレクトに影響を受けて、イメージを依田先生に伝えて落とし込んでいただく形なので、依田先生にはかなりお世話になっています(笑)。
——原作を読んだ時の印象を教えてください。
堀 すごくハチャメチャな内容だなと(笑)。アニメスタッフとの打ち合わせでの第一声は決まっていて、「ハチャメチャな作品なのですが…」と本作の代名詞のように使っています。映像化にあたり、何がそんなにハチャメチャなのかを僕なりに分析しました。どこまでが静脈先生の原作に書いてあることで、どこからが依田先生が画で膨らませている部分なのか、と。正解は分からないのですが、それを想像するのも面白かったし、考えた結果、この作品は”誰もブレーキをかけていない”ところが面白いという結論に至りました。たとえば、鳴子(弦弥)が木の上でマッサージチェアに乗っているシーンがあるんですが、どう考えてもおかしい。だけどそこに理屈を通そうとせず、おかしなことをおかしなまま描いている。勢いでねじ伏せられて、こういうものだと楽しめる作品だと思います。ちなみに、僕が読ませていただいた限り形跡は見当たらなかったですが、誰もブレーキかけてないですよね?

静脈 依田先生から「どういうことでしょうか?」といった質問が来たことはないです(笑)。自分がめちゃくちゃだと思って書いたことでも、なんなら、より膨らんで爆発したものが上がってきます。
堀 もっと質問したくなりそうなところあるはずなのに…、すごいコンビですよね(笑)。原作の時点からアクセルを踏んで、画でもさらに踏むみたいな。
静脈 結果、そうなっていますね(笑)。コミックスの第二話での「ナウマンゾウにパオンさせる…」みたいなところも分からないですよね?
堀 分からなかったです。果たして意味があるのか…。打ち合わせの時は、裏社会の隠語なのかもと話していたのですが。
静脈 多分そうだと思います、分からないですけれど(笑)。
堀 鉛玉が最初から口の中に入っているのかどうかとか、打ち合わせでいろいろ話しました。
静脈 一応、タピオカミルクティーのタピオカが鉛玉という設定で…。
堀 それをストローで吸い上げるとか考えていくと、訳のわからない世界だなと(笑)。僕が作画担当なら、いろいろとリアリティラインを確認してしまうようなところも、依田先生の画柄も相まって、こういうものだと思わせるような力があると感じています。
——アニメで印象的なシーンはありますか?
静脈 第1弾PVにも出てきた車が真っ二つになるシーンです。アニメでどのように表現するのか気になっていたので、初めて観た時は「ちゃんと斬れてる!」って感動しました(笑)
堀 漫画なら「薬品で斬っている」というコマを描けば、画の迫力で「斬ったんだ」と腑に落ちます。でも、アニメでは動きを表現するために1枚1枚、画を描かなければいけないので、斬ったところがどんな風に溶けているのかを考えました。スタッフには「液体だけどレーザーの気分で」と説明して、それを頭に入れて描いてもらいました。
静脈 液体のレーザーで。なるほど、めちゃくちゃ面白いです(笑)。
堀 本作の世界観でのそういったリアリティにも注目していただけたらうれしいです。
——アニメから影響を受けて原作へのアイデアが膨らむことはあるのでしょうか。
静脈 膨らむことはたくさんありますし、実際にアイデアをいただいたものもあります。たとえば、嵐山(キミ恵)の過去編に登場する偽物の坂本龍馬の名前は「ローマ字でRYOMAがいいのでは?」という堀監督のアイデアをいただきました。詳細の言及は避けますが、今後の原作で、アニメからの影響を感じていただけるところは出てくると思います。
堀 うれしいです! RYOMAの演出で「〜ぜよ」という語尾の使い方のイメージを伝えたところ、笑い声で使うアイデアが飛び出したり、声優さんがノリノリでお芝居を膨らませながら楽しく演じていただいています。ぶっ飛んだ設定も相まって、面白いものもたくさん生まれた現場でした。
静脈 アフレコを見学した際に、声優さんと監督とのやりとりで、すごい! と思ったことがあって。第一話の人間椅子のシーンで「うえっ」と声が出るところで、痛みからくる「うえっ」なのか重みからくる「うえっ」なのかという声優さんからの質問に、監督が「重みで!」と即答したんです。やりとりのスピード感にも驚いたし、みなさんの作品解釈の深さにもうれしさを感じたし、この後の展開もしっかり入っているのが伝わってきて、安心もした瞬間でした。
堀 その後の展開にも影響を与えるので、音色の調整は大事なんです。本作では、ほんの数ページや1コマ2コマで消えてしまうキャラクターもすごく面白いので、アニメでも隅々まで注目してほしいです。
——堀監督から見た主人公・下呂の魅力を教えてください。
堀 ひとことで言うと残念イケメンだけど、やっぱり可愛いなって思います。実家が嫌いと言いながら、ちゃんと継いでやろうみたいな気持ちを持っていて、意外と責任感がありますよね。ひたすらいいヤツで責任感もあって、カッコいい。ほぼ完璧だけど、唯一女性が苦手だという残念イケメン。カッコいいけれど、可愛げがある。結論として可愛いが勝つというのが彼の魅力だと思います。
—静脈先生は下呂の可愛らしさを意識して設定に取り入れているのでしょうか。
静脈 可愛らしさはあまり意識していないかもしれません。でも、下呂っぽさって何だろうというのはずっと考えながら描いています。シリアスな世界で生きている人間なので、バランスを取るために、遊具菓子やトイレ掃除という要素を詰め込んでいきました。そのバランスが、うまいこと可愛さに結実していったのかなと、堀監督の話を聞いていて思いました。
——『マリッジトキシン』を作るにあたってのこだわりや軸としていることを、原作者、アニメ監督の立場からお聞かせください。
静脈 僕は、”負けヒロイン”という言葉があまり好きではなく、そこに抵抗したいと思っています。この漫画に出てくるヒロインは下呂がいなくても生きていける、独立しているキャラクターです。それが”ヒロインごとに違った世界観を作る” ところに反映されている気がしています。本作においては、ヒロインが主人公に依存していないというのを描いていきたい。それが、この漫画でしかできない挑戦だと思いながらやっています。
堀 原作から読んでくれている少年たちはもちろん、婚活の話ですし、放送時間も23時過ぎの作品なので、働いている大人の方たちが仕事から帰ってきてお酒を片手に飲みながら観てもらえたらと思っています。主人公は殺し屋ですが、内容は殺伐とした話ではありません。僕が漫画を読んでいて好きだと思ったのは、ハチャメチャなところはもちろん、肯定的な内容だというところ。そんなところを楽しんでいただきたいという思いで作っています。
——放送を楽しみにしている方へのメッセージをお願いします!
静脈 休み時間や通勤時間にパラパラっと読んでもらえたり、1週間のサイクルに組み込まれたらうれしいなと思いながら作っています。あまり何も考えずに、楽しんでほしいです。
堀 ハチャメチャですが、技術も頭もちゃんと使って作っているよくできたエンターテインメント作品です。
静脈 ウェルメイドみたいな(笑)。
堀 まさにその通りです! アニメを観て元気になってくれればという思いで作っているので、ぜひ楽しんでください。